患者・ご家族の方へ
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)とは
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は、長い期間(半年以上)にわたって強い疲労感が続き、全身の脱力などによって、日常生活を送るのが困難になる原因不明の病気です。さまざまな症状が現れますが、例えば、簡単な家事を行っただけで、翌日から1週間ベッドから起き上がれないという症状など、身体的負荷のあとに極端な消耗(労作後の消耗)が起こることが一つの特徴です。そのほか、睡眠障害(過眠や不眠、熟眠感がないなど)、認知機能障害(記憶障害、集中力低下、脳に靄(もや)がかかったような状態)を通常伴います。その他、立っていることができない(起立不耐)、音・光・匂いの刺激や多種多様な化学物質に耐えられない(刺激過敏症や化学物質過敏症)、頭痛、関節痛、筋肉痛のために生活の質が極端に低下すると言った症状もみられます。また、原因不明の発熱や、腹痛・下痢、体温調節が困難になるといった症状も比較的多くの患者さんでみられます。
この病気は、発熱、咽頭痛、下痢などの風邪でみられる症状のあと発症することが多いことから、さまざまなウイルスが引き起こす疾患であることが共通認識になっています。一方で、脳画像研究によって「脳内炎症」が認められるという報告や、免疫系の異常を示す論文、免疫療法の有効性を示す医師主導治験の結果など、新しい知見が報告されるようになりました。また、米国国立衛生研究所(NIH)が本格的な研究に乗り出すなど、海外での研究活動が活発化してきています。
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の難しさ
この病気の診断は、上に記載したような症状があることと、他の病気によるものではないことを検査などで確認すること(除外診断といいます)によって行われますが、診断がなかなかつかないケースが多いのが実情です。その理由としては、患者さんによって症状の組み合わせが異なること(ある患者さんでは痛みの症状は乏しいなど)、病院で受ける血液検査や脳画像検査では異常が出ないこと、などがあげられます。また、病気の原因や多彩な症状を引き起こすメカニズムが不明なことから、医学教育が十分には行われず、一般医療者のME/CFSについての知識が十分でないという実態もあります。そのなかで、これまでこの病気の診療や研究は、内科、リハビリ科、精神科、心療内科、総合診療科などがそれぞれ対応してきました。なお、原因や病態に基づいた根治療法はなく、活動量の調整(適切な休憩)や対症療法が試みられているのが現状で、この病気に対して保険適応が認められた治療法・薬剤はまだありません。今後、研究をさらに推進し、治療薬の開発を進めるために、専門家が領域を超えて情報を共有することが重要と考えられます。
研究開発の目標・ねらい
本研究班は、ME/CFSの診療に従事している現場の医師と、神経免疫学、放射線医学、リハビリテーション医学などの専門家のネットワークを強化することを通じて、ME/CFSの診療や研究レベルを向上させることを目的としています。
まず「研究ネットワーク」を強化するために、それぞれの研究者が独自に開発している研究手法や治療法について、情報の共有を進めます。そのため研究班内(NCNP内)に事務局を置き、班会議などを通じて班員間の情報共有を進めるとともに、日本神経学会や国際CFS/ME学会など、国内外の専門学会との連携を進めます。さらに、ME/CFSの病気のメカニズムの理解を深めるために、重要な手がかりの一つである免疫異常に着目し、NCNPの免疫研究部と放射線診療部が連携して免疫学的解析・脳画像解析を進めます。
つぎに「診療ネットワーク」の構築ですが、ME/CFSの実態と診断・治療の必要性を理解していただくことにより、診断や治療にご協力いただける医療関係者・医療機関が増え、診療の基盤構築が進むことが期待されます。班員は連携・協力して、医療関係者はもとより、患者さん・ご家族へもME/CFSに関する最新情報を提供します。ME/CFSの正しい知識を持った医療関係者を増やすには、種々の教育活動を推進することが必要ですが、そのために国内外の学会との連携を進めます。
本研究班はこのような方針で研究開発を進めており、免疫研究を病態解明の一つの重要な突破口ととらえています。しかし、ME/CFSの原因や病態は多種多様であり、このことを忘れてはならないと考えています。従来の研究成果も参考にしながら、ME/CFSの多様性の理解や全容解明を目指していきたいと考えています。