医療関係者・研究者の方へ
国際ME/CFS学会編「臨床医のための手引書 2014年版」の紹介
本研究班では、このたび、国際ME/CFS学会が発行した“Primer for Clinical Practitioners 2014 edition”の日本語翻訳を行い、公開することといたしました。国際ME/CFS学会は1990年の設立以来、ME/CFSの研究と診療のために活動を続けてきた団体です。本冊子は、臨床現場で実際に役立つ「手引き」となることを目的に、臨床や研究の第一線で活躍している医療関係者が執筆しています。内容は多岐にわたり、ME/CFSの疾患概念や病態生理、診断の仕方(うつ病との違いや鑑別疾患、合併疾患等)、生活指針や治療方針などについて、具体的かつ分かりやすく記載されています。情報の科学的な根拠として、多数の文献(主に欧米での研究)が引用されています。論文の多くは相互に矛盾せず、ME/CFSが生物学的な基盤を有する疾患であることを示しています。発症機序については、誘発因子(感染症、環境因子、深刻な身体的・精神的外傷)が異常な免疫応答を引き起こし、それがさまざまな症状の発現につながる可能性が示されています。この考え方は、過去に報告されたME/CFSの集団発生を説明しうるものであり、現在内外で進められている研究の基礎となっています。医療制度が異なる我が国では、そのまま使用できない部分もありますが、我が国のME/CFS患者の医療・研究の発展のために、役立つことを願っております。
日本語翻訳 Primer_for_Clinical_Practitioners_202006
原文のURL:
https://growthzonesitesprod.azureedge.net/wp-content/uploads/sites/1869/2020/10/Primer_Post_2014_conference.pdf
研究開発の背景
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は、慢性疲労、労作後の極端な消耗、睡眠障害、認知機能障害、筋力低下などの症状を呈する難治疾患です。その病態や原因は謎に包まれてきましたが、NIH(米国国立衛生研究所)が本格的な研究に乗り出すなど、最近海外での研究が活発化してきました。また、近年の研究によって中枢神経系炎症や免疫異常を示唆する所見が得られ、免疫治療の有効性を示唆する結果が公表されたことから、新規治療開発への期待が高まっています。
これまで、ME/CFSは原因や病態が不明であったことなどから、医学教育や医学研究が十分に行われず、一般医療者の認知や理解が乏しいという状況がありました。また、ME/CFSの診療や研究は既存診療科の隙間(ニッチ)領域であり、内科、リハビリ科、精神科、心療内科、総合診療科などがそれぞれ対応してきた現状があります。研究をさらに推進し、治療薬開発を進めるためには、専門家が領域を超えて情報共有することが必要です。
研究開発の目標・ねらい
本研究班の目的は、ME/CFSの臨床を熟知した国内専門家、神経免疫学、放射線医学、リハビリテーション医学などの専門家のネットワークを強化して、ME/CFSの診療・研究レベルの向上につなげることです。
「研究ネットワーク」を構築するために、個々の研究者が独自に開発している研究手法、測定系、治療法などについて、情報共有を進めます。研究班内(NCNP)に事務局を立ち上げ、班会議・メール会議を通じて班員間の情報共有を進め、日本神経学会や国際ME/CFS学会など、国内外の専門学会との連携を進めます。
さらに、ME/CFSの病態解明に向けて、重要な手がかりの一つである免疫学的異常に着目し、NCNPの免疫研究部・放射線診療部で実施している免疫学的解析・画像解析をさらに進め、診断に有用なバイオマーカーの開発を目指します。これにより、ME/CFSの診断が容易になれば、ME/CFS患者の保健・医療・福祉の向上につながることが期待されます。
本事業ではまた、「診療ネットワーク」の基盤の構築をめざします。多くの医療関係者にME/CFSの実態と診断・治療の必要性を理解していただくために、班員が協力して、医療関係者や患者さん・ご家族へのME/CFSに関する最新情報の提供を行い、国内外の学会との連携を図りながら種々の教育活動を推進します。これらの活動を通じ、ME/CFSの正しい知識を持ち、診断や治療に御協力いただける医療関係者・医療機関が増えていくことを目指します。
本研究班は、主として、上記のような研究開発を目指しますが、ME/CFSは症候群であるために、その原因や病態は多様であり、この点に留意することが重要です。一方で、免疫学的異常は定量性があり具体的な成果もあがっていますので、免疫研究を病態解明の重要な突破口としてとらえ、得られた成果を、ME/CFSの多様性の理解や全容の解明につなげていきたいと考えています。